弊社サイトにお越しいただき、ありがとうございます。株式会社リーラムジカ代表取締役の藤 拓弘(とう たくひろ)と申します。

今回は、皆さまに特別なお知らせをさせていただきます。

2016年7月に、弊社サイトで満を持してスタートしたウェブ連載小説「人生で大切なことはすべてピアノ教室で学んだ」。おかげさまで、たくさんのピアノの先生にお読みいただき、ご声援や励ましのお声をいただきながら、連載を続けてきました。

当初から、「ぜひ書籍化してください!」というお声も多くいただきました。私も、連載のスタート当初から密かにその思いを抱いていましたので、そうしたお声が、どれだけ私にとって励みになったかわかりません。本当にありがとうございます。

その後、連載を続けていたものの、エンディングを描けないまま月日は経ち…再びたくさんの先生方から、「連載の続きはないのですか?」「続きが読みたいので公開を待っています!」というお声をいただいてきました。

実は、ウェブ連載の続きの原稿は執筆しており、エンディングも構想のなかにありました。ただ、さまざまなことが要因となり、残念ながら公開までには至りませんでした。この点、ご期待いただいていた先生方には、心からお詫び申し上げます。

ですが、ようやく皆さまに「嬉しいお知らせ」ができます。

このウェブ連載小説の書籍化が決定しました!

「夢をかなえたピアノ講師~ゼロからの180日」

ついに今秋、書籍となって皆さまにお届けです!

■3年ぶりの自著は「物語で学ぶ実用書」

今回のウェブ連載小説の書籍化、これはひとえに応援してくださっているすべての先生のおかげと思っております。まずは、心から感謝をお伝えしたいと思います。本当にありがとうございます。

私はこれまでに、書籍を7冊ほど出版させていただいてきました。今回の新刊は3年ぶりとなる自著。まさに私にとって本当に特別なものとなりそうです。その理由を「3つ」お伝えしてみます。

1つは、何と言っても初の「小説仕立ての実用書」であること。いつかは小説のようなものを出版してみたい、と思っていましたが、なにしろ物語を書くのは初めての試みです。ウェブで連載していた当時も、試行錯誤の連続で、本当に悩みながら、うなりながら筆を進めていました。

2つ目は、今回の「小説仕立ての実用書」は、業界に類をみない新しいジャンルへの挑戦でもあったこと。本書は、ストーリーを読み進めるうちに、ピアノ指導者、教室運営者、そして人としてどう生きるべきか、また、ピアノ指導者としての成功法則などを、物語を読みながら学べる実用書です。業界にはこれまで、春畑セロリ先生の「白菜教授のミッドナイト音楽大学」や、千蔵八郎先生の「あの子がピアノをやめた理由」という素晴らしい作品がありますが、今回の新刊は、それらとはちょっと違うテイストで、「ピアノ指導の本質」に迫るストーリー展開となっています。

3つ目は、中身はもちろん、本の「外回り」にもとても力を入れていること。今回、私のわがままだったのですが、大人気のブックデザイナーの方、そして今をときめくイラストレーターさんにお願いして、素敵な本に仕上げていただいているところです。表紙をご覧になったら、きっと皆さまは驚かれることでしょう。詳細はまた随時お知らせいたしますが、この本が楽器店や書店に並んだところを想像するだけで、ワクワクしてきます。

■新刊の「第1話」を特別に公開!

この新刊は、いつもお世話をいただいている音楽之友社様からの出版となります。今回、出版社様に無理をお願いして、このページの末尾にて、新刊の「第1話」だけ無料公開させていただくことになりました!

お読みいただいて気づくと思いますが、主人公の名前が変わっています。また、第1話はそれほどでもありませんが、ストーリーの整合性を保つために、物語全体を通して大きく加筆・修正を加えています。

今回の書籍化にあたり、より読みやすく、そして皆さまの心に少しでも残るように、と敏腕編集者さんの多大なお力をいただきながら原稿を進めてきました。「第1話」は、このページの末尾に掲載しておりますので、ぜひお読みいただけましたら幸いです。そして、この秋に出版される待望の新刊。ぜひ今からご期待ください!

■全国各地で出版記念イベント決定!

さて、今回の話題満載の新刊。もう一つ、お知らせがあります。

今回の新刊の出版を記念して、全国10か所にて「出版記念イベント」を開催いたします!

著者である私が、全国をまわり、今回の新刊書籍についてや、「夢をかなえる」特別なワークの実践、さらに、「スペシャルゲスト」をお迎えしてのスペシャルトークやトークセッションなど、特別感満載のイベントを企画しています。さらに、サイン会はもちろん、著者やゲストの先生と触れ合える、「スペシャル懇親会ランチ」も、全国で予定しています。

9月20日(木)の「大阪イベント」を皮切りに、全国各地を回る今回の出版記念イベント。さっそくですが、参加お申込みも順次スタートしております。なお、各会場とも「定員」がございます。また、二度とないスペシャルなイベントですので、お近くの先生はぜひお早目にお申込みくださいね。

それでは、全国の出版記念イベントのスケジュールの発表です!

【大阪イベント】

●日時:2018年9月20日(木)10:30~12:30
●場所:カワイ梅田コンサートサロン ジュエ
(大阪府大阪市北区梅田1丁目1番3 大阪駅前第3ビル1F TEL:06-6345-8300)
●参加費:一般:3,000円 カワイメンバーズ:2,500円 KPA会員・ピアノ講師ラボ会員:2,000円(懇親会費別途2,000円程度)
●定員:先着70名
●スペシャルゲスト:今野万実先生、折田信枝先生、足立由起子先生、梶原香織先生

●お申込み:080-4560-1010(KPA専用電話)info@kpapiano.com(担当:梶原)
※関西ピアノ芸術連盟(KPA)の主催イベントとなります
※受講料は当日会場にてお支払いください
※カワイメンバーズの方はカワイ梅田までお申込みください
※当日の著書の販売、サイン会有り

【長野イベント】

●日時:2018年10月1日(月)10:00~12:00
●場所:望月音楽教室
(長野県松本市並柳3-11-20)
●参加費:一般:3,000円、ピアノ講師ラボ会員特別割引価格:2,000円(著者・ゲストとのランチ会別途1,500円)
●定員:先着30名
●スペシャルゲスト:藤原亜津子先生

●お申込み:お電話:090-8328-4533
メール:mkktetsu@gmail.com(担当:宮原)

※「お名前」「ご住所」「お電話番号」「メールアドレス」をお書きの上、件名を「長野イベント参加希望」としてメールにてお申込みください
※懇親会ランチのキャンセルは2週間前までに必ずお願いいたします
※イベント参加のキャンセルは前日までお受けいたします
※お車でお越しの予定の方は事前にご連絡ください

【新潟イベント】

●日時:2018年10月5日(金)10:30~12:00
●場所:スタジオスガマタ
(新潟市中央区東中通1-86 ヴィラ東中通1F)
●参加費:一般:2,500円、ピアノ講師ラボ会員特別割引価格:1,500円(著者・ゲストとのランチ会別途1,500円)
●定員:先着40名様
●スペシャルゲスト:春畑セロリ先生

●お申込み:お電話:090-7177-7473
メール:kitamura.piano@gmail.com(担当:北村)

※お申込みは「お名前」「お電話番号」「懇親会の参加有無」をお知らせください
※イベント・懇親会共に申込み締切9月28日(金)
※キャンセルについては3日前までにご連絡をお願いいたします

【東京イベント】

●日時:2018年10月8日(月祝)13:00~15:30
●場所:Ginza SOLA
(東京都中央区銀座2-2-18 TH銀座ビル10階)
●参加費:一般:3,500円、ピアノ講師ラボ会員特別割引価格:3,000円(ケーキ&ドリンク付きのティータイムイベント)
●スペシャルゲスト:春畑セロリ先生

●お申込みフォームはこちら←(主催:ルトゥルネ表参道)

【山形イベント】

●日時:2018年10月9日(火)10:00~11:30
●場所:山形テルサ リハーサル室)
(山形県山形市双葉町1-2-3)
●参加費:一般:2,500円、ピアノ講師ラボ会員特別割引価格:1,500円(著者・ゲストとのランチ会別途1,000円程度)
●定員:先着80名
●スペシャルゲスト:春畑セロリ先生

●お申込み:お電話:090-5187-3068
メール:zowy56@docomo.ne.jp(担当:渡部)

※お申込みは「お名前」「お電話番号」「懇親会の参加有無」をお知らせください
※イベント・懇親会共に申込み締切9月28日(金)
※キャンセルについては3日前までにご連絡をお願いいたします

【神奈川イベント】

●日時:2018年10月11日(木)10:00~11:45
●場所:カワイ横浜店イベントサロン「プラージュ」
(神奈川県横浜市中区相生町6-113・オーク桜木町ビル1F)
●参加費:一般:3,000円、ピアノ講師ラボ会員特別割引価格:2,000円(著者・ゲストとのランチ会別途1,000円)
●定員:先着50名
●スペシャルゲスト:佐々木邦雄先生

●お申込み:info@pianoconsul.com(株式会社リーラムジカ)

※「お名前」「ご住所」「お電話番号」「メールアドレス」をお書きの上、件名を「横浜イベント参加希望」としてメールにてお申込みください
(懇親会ランチをご希望の方は、必ずその旨を添えてください)

【宮崎イベント】

●日時:2018年10月15日(月)10:00~11:45
●場所:Salle Mandjar(サル・マンジャー)
(宮崎県宮崎市船塚2-17)
●参加費:一般:3,000円、ピアノ講師ラボ会員特別割引価格:2,000円(著者・ゲストとのランチ会別途1,500円程度)
●定員:先着50名
●スペシャルゲスト:渡部一恵先生

●お申込み:お電話:080-6739-2458(ショートメール可・担当:田中)
メール:basic.plus.a.124@gmail.com

※「お名前」「ご住所」「お電話番号」「メールアドレス」をお書きの上、件名を「宮崎イベント参加希望」としてメールにてお申込みください
※懇親会ランチをご希望の方は、必ずその旨を添えてください
※懇親会申込み期限は2週間前までとなります

【愛知イベント】

●日時:2018年10月22日(月)11:00~12:30
●場所:ルチアホール
(愛知県名古屋市中村区那古野1-45-5)
●参加費:一般:3,000円、ピアノ講師ラボ会員特別割引価格:2,000円(懇親会ランチ代別途1,500円程度・会場にてお弁当をご用意いたします)
●定員:50名(懇親会ランチは16名様限定・先着順)
●スペシャルゲスト:山本美芽先生

●お申込み:お電話:090-8959-4746
メール:rythsolfe.ms1152@gmail.com(担当:原田)

※「お名前」「ご住所」「お電話番号」「メールアドレス」をお書きの上、件名を「愛知イベント参加希望」としてメールにてお申込みください(お電話での申込みも可)
※懇親会ランチをご希望の方は、必ずその旨を添えてください
※懇親会ランチのキャンセルは2週間前までに必ずお願いいたします

【静岡イベント】

●日時:2018年10月23日(火)9:45~11:30
●場所:富士市文化会館ロゼシアター・リハーサル室
(静岡県富士市蓼原町1750番地)
●参加費:一般:3,000円、ピアノ講師ラボ会員特別割引価格:2,000円(著者・ゲストとのランチ会別途1,000円程度)
●定員:先着50名
● スペシャルゲスト:山本美芽先生

●お申込み:お電話:090-5865-7562
メール:z07kpu703a@hi3.enjoy.ne.jp(担当:窪田)

※「お名前」「ご住所」「お電話番号」「メールアドレス」をお書きの上、件名を「静岡イベント参加希望」としてメールにてお申込みください(お電話での申込みも可)
※懇親会ランチをご希望の方は、必ずその旨を添えてください
※懇親会ランチのキャンセルは2週間前までに必ずお願いいたします

【群馬イベント】

●日時:2018年10月30日(火)10:15~12:00
●場所:カワイ前橋ショップ
(群馬県前橋市本町2-10-1)
●参加費:一般:2,000円、ピアノ講師ラボ会員特別割引価格:1,000円(著者・ゲストとのランチ会別途1,500円程度)
●定員:先着50名
●スペシャルゲスト:多喜靖美先生

●お申込み:お電話:090-4368-8379
メール:lily.co.79722.hyn@gmail.com(担当:長岡由利子・Pause研究会)
あるいは、027-221-1821(カワイ前橋ショップ、担当:小平)
※「お名前」「ご住所」「お電話番号」「メールアドレス」をお書きの上、件名を「前橋イベント参加希望」としてメールにてお申込みください
※懇親会ランチのキャンセルは2週間前までに必ずお願いいたします
※イベントのキャンセルは前日までお受けいたします

出版記念イベントの情報は以上となります。

全国の先生方にお会いできます日を、今からとても楽しみにしております。

■新刊の情報は弊社のメルマガにて!

最後になりますが、今回の新刊の進捗状況や発売時期、また特別なお知らせなどは、弊社サイトやブログ等でお伝えいたします。ただ、いち早く情報を知りたい方は、弊社の無料メルマガ「成功するピアノ教室」(読者数5,140名)にご登録いただけましたら、最新の情報をお受け取りいただけます。ご登録はかんたんですし、必要ないと思われたら、すぐに配信解除もいただけるように配慮しています。新刊の情報はもちろん、教室運営やレッスンについて、またお勧めの書籍やピアノ教材のコーナーもありますので、これを機にご登録いただけましたら幸いです。

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それではお待たせいたしました。今秋出版予定の、新刊「夢をかなえたピアノ講師~ゼロからの180日 物語で学ぶ 指導者としてどう生きるか」の第1話を、特別に公開いたします。ぜひごゆっくりお楽しみください。

新刊【夢をかなえたピアノ講師~ゼロからの180日】第1話 特別無料公開

そして最後の生徒がいなくなった

「すみませんが、今日でピアノを辞めさせますので」

突然のひと言だった。レッスンを終え、じゃ来週ね、と言おうとしたタイミングだった。一瞬では理解できず、男は浮かべた作り笑いもそのままに立ちすくむしかなかった。聞き間違いであってほしいという願いは、母親の真剣な表情で見事に打ち砕かれた。

もっとも起こってほしくなかったことが、今、目の前で現実になっている。

母親に半ば強引に手を引かれ、女の子は去って行った。顔だけこちらへ向けたその子の目に表情はなかった。あるとしたら哀れみだろうか。

視界からいなくなってしばらくしても、その目の残像は消えなかった。教室にたったひとり残っていた、最後の生徒――。

どのくらい立ち尽くしていただろう。男はふらふらとレッスン室に戻り、ピアノ椅子にドカッと倒れ込んだ。悔しさと疑問、怒り、後悔……あらゆる感情が渦巻いては心をかきむしる。

生徒が全員辞めていった。それは、ピアノを教える者としての価値がゼロになったことを意味する。この現実をいまだ受け止められず、再び放心状態となった。

ようやく顔を上げると、ピアノの譜面台に何かがあるのに気づいた。さっきの女の子の楽譜だ。置き忘れたのか、わざと置いていったのか……やり場のない憤りにも似た感情が襲う。

「俺の何がいけないんだ!」

楽譜を床に投げつけようとして、思い留まった。噛み締めた奥歯をゆるめ、ゆっくりと楽譜を譜面台に戻す。楽譜に八つ当たりしている場合じゃないな……心でつぶやきながら、力なく笑うしかなかった。

*      *

男の名は三上雅人(みかみ まさと)、29歳。業界では圧倒的少数派となる男性ピアノ講師だ。東京都心にある帝国音楽大学のピアノ科を卒業後、イタリアのミラノに2年ほど音楽留学し、5年前に帰国。当時は将来への見えない不安を感じながらも、なんとか音楽で生きていこうと思っていた。

しかし、現実は予想を超える厳しさだった。とにかく仕事がなかった。母校に貼り出されている求人情報を頼りに、音楽教室から大学の非常勤講師まで片っ端から応募してみた。結果は惨敗。書類審査ですべてはねられた。

音大も卒業した、留学も経験している。だからどこかの講師くらいすぐなれるだろう。その考えは甘すぎた。なんの資格もない、音楽教育の現場も知らない、そんな人間を迎え入れてくれるところはどこにもなかった。

メインの仕事に、と願っていたピアニストの活動もパッとしない。ときおり昔なじみから声がかかるジョイントコンサート、歌や楽器の伴奏は、充実感の得られる仕事だ。

ただ、雅人が求めていたのは、充実感というより「人から必要とされている実感」だった。雅人のピアノを聴きたい、ぜひ演奏してほしい、そんな人がいることを肌で感じることだ。だが、それが薄い。あまりに薄い。

帰国直後に開いたリサイタルでは、お祝いや応援もあってそれなりに席は埋まったが、その後のコンサートでは、なかなか人が集まらなかった。知り合いや友達にチケットを買ってくれと頼み込んでいる自分が情けなかった。

「これじゃただの押し売りじゃないか!」

自分のピアノはまったく求められていない。そもそも俺なんて世の中から必要とされていないんだ……

音楽を続ける意味を見失いそうになって頭を振る。そんな雅人をかろうじて支えていたのは、幼い頃からひたすらピアノと向き合ってきた事実だけだった。

出口のない迷路をさまよい歩くような不安感の中、意を決して自宅でピアノ教室を始めたのが2年ほど前。はっきりいえば、お金のためだった。軌道に乗れば、嫌々続けているアルバイトも辞められるかもしれない。

ただ、雅人はピアノを教えることを極力避けてきた。子どもが苦手だったのだ。ピアノの先生としては、まさに致命的。だから「レッスン」は、出したくなかった最後のカードだった――。

*      *

雅人は音楽大学に合格して、岩手の田舎町から東京に出てきた。入り組んだ路地の奥にある古びてくすんだ2階建ての狭小住宅で、ひとり暮らしを始めた。私立の音大となれば何かとお金がかかるだろうと、東京の親戚が空き家を破格の家賃で貸してくれたのだ。

音大を卒業して留学が決まったときも、ピアノや荷物をそのままにしておいてくれた。これは本当に助かった。帰国直後は、当然無職。ただでさえ家賃の高い東京で、ピアノが弾ける部屋など借りられるわけがない。しかも都心という立地。これ以上ない幸運だ。

とはいえ、親が若い頃に建てられた家屋。老朽化が至るところで目立つ。軋んで開きにくい玄関ドア、一部が割れて役目を果たさない雨どい、ヒビが目立つ外壁……おそらく誰もここがピアノ教室だとは思わないだろう。初めて来る生徒だったら、ドアを開けるのすら躊躇するかもしれないな……

ため息をつくも、背に腹はかえられない。贅沢を言える身分じゃない。無理やり自分に言い聞かせ、準備に取り掛かった。

*      *

見よう見まねで作ったチラシ。ほどなく子どもが3人集まった。ようやく運が巡ってきたのか。気を良くした雅人は、簡易的なホームページも作ってみた。近隣の教室がほとんどホームページを持っていないのが幸いしたのか、問い合わせが相次いだ。あっという間に10人の生徒を抱えた雅人は、この順調な滑り出しを喜んだ。

しかし、喜びは束の間だった。生徒は集まったが長続きしないのだ。何かと理由をつけて辞めていく。他の習い事や塾に通い始めたとか、部活が忙しいからとか、大人は仕事の都合が多かった。だが、雅人はこの現実をさほど気にしなかった。彼のモットーは、去る者追わず。「辞めたいならどうぞ、どうせ生徒はまた集まるさ」と高飛車だった。

だが、半年も経つと入会の問い合わせがパタッとなくなり、一年経つころには辞める生徒が目に見えて増え始めた。これにはさすがの雅人も青ざめた。心に余裕がなくなると、生徒や保護者への対応にも影響が出始める。いつもイライラしていた。

一番の問題は、生徒が辞める本当の理由がよくわからないことだ。忙しくたって、続けたければなんとかするはずだ。真因がわからなければ手の打ちようがない。

そうこうするうちに、ついに生徒が最後のひとりになった。もうすぐ詰まれる将棋のような焦りを感じていたが、無情にも最後通告の瞬間はあっさりやって来た。

「すみませんが、今日でピアノを辞めさせますので」

――やはり自分は世の中から必要とされていないんだ。

*      *

雅人は帰国してからこれまで、生活費をまかなうためにアルバイトを続けていた。カフェのウェイターや倉庫での商品検品などを経て、今はファミリーレストランのキッチンスタッフに落ち着いている。キッチンスタッフとは名ばかりで、実は料理が苦手でもできる仕事。何より接客をしなくていいのが気に入っている。アルバイトをしていることを周囲に知られたくなかったのだ。惨めだった。

ピアノを弾く時間も体力も否応なく奪われていく。まとわりつく葛藤は、アルバイトを続ける限りなくならないだろう。

*      *

その日も長時間の勤務だった。家に着いて疲れ果てた体で郵便受けを覗くと、一通の手紙が入っているのが見えた。部屋に入り、封を開けてみる。音大時代の恩師の退官記念パーティーの案内だった。

(西園寺先生も退官か……)

妥協を許さないレッスンだったが、愛情深く生徒想いの先生だった。不出来な学生だった雅人にも、とてもよくしてくれた。この実力で留学できたのは、ほとんど西園寺先生のおかげだったと言っていい。それなのにすっかり音沙汰なくしていた自分を雅人は恥じた。

(本音をいえば、こんな不甲斐ない状態で先生に会うのは気が引ける。いろんな人に近況を尋ねられれば情けなくなるに違いない。……いや、それでも、これは絶対に行くべきだ。先生にはあらためてお礼を言いたいし、いろいろ相談もできたら……)

雅人は、返信はがきの「出席」の欄にていねいにマルを書いた。

この一通の手紙が雅人の人生を大きく変えるきっかけになるとは、このときは知る由もなかった――

(第1話・終)

新刊「夢をかなえたピアノ講師~ゼロからの180日」は2018年秋に刊行予定!

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